「職業としての小説家」村上春樹 感想・読後レビュー 村上春樹の小説の成り立ち


 
 「職業としての小説家」は2015年9月にスイッチ・パブリッシングより発行された村上春樹のエッセイ集です。

 村上春樹が彼の小説を書くことに関する見解の(今のところの)集大成としてのエッセイ集です。

 「職業としての小説家」という題名は経済学者マックス・ウェーバーの「職業としての政治」からつけられたものだと思われます。

 ネタバレ注意


 本書の内容に関する記述がありますので、ネタバレに注意してください。

 小説を書くきっかけ


 村上春樹の小説について語る時には、デビュー作の「風の歌を聴け」を書くことになったきっかけは欠かせないものです。
 当然、その経緯について、この本には細かく書かれています。
 抜粋して要約します。
「1978年の4月に神宮球場で野球観戦をしていた時に、一回裏のヤクルトのヒルトンが二塁打を打った時に「何の脈絡もなく、何の根拠もなく、ふとこう思ったのです。『そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない』と。『それは、空から何かがひらひらとゆっくり落ちてきて、それを両手で受け止められるような気分でした』それは啓示のような出来事でした。」
 村上春樹は、それを英語でエピファニー(epiphany)と言い表しています。「ある日突然何かが目の前にさっと現れて、それによって物事の様相が一変してしまう」ことと説明しています。

 頭の中の抽斗(ひきだし)について


 村上春樹の作品は細かいデティールにこだわった場面が多いのですが、そのようなものを組み立てていくのに重要なのが、「有効に組み合わされた脈絡のない記憶」であり、それを保存しておくのが、頭の中の膨大な数の抽斗(ひきだし)であると語っています。
 作品の中でも抽斗ということばがよく出てきます。

 「E.T 方式」のマジック


 スティーブン・スピルバーグの『E.T』の中でE.Tが物置のがらくたをひっかき集めて、即席の通信装置を作ってしまうシーンがあります。それを、引き合いにして、優れた小説は、なんでもないものに「マジック」をかけて、洗練されたものに変えてしまうことが必要である。と言っています。
 この「マジック」も村上春樹の小説を書く力なのでしょう。
 

 世界で受け入れられる村上小説


 村上春樹は自分の小説が世界で受け入れられていることについてこう語っています。(要約して抜粋しています)
 「物語というのは、もともと現実のメタファーとして存在するものですし、人々は変動する周囲の現実のシステムに追いつくために、あるいは、そこから振り落とされないために、自らの内なる場所に据えるべき新たな物語=新たなメタファー・システムを必要とします。
 その二つのシステムをうまく連結させることによって、言い換えるなら、主観世界と客観世界を行き来させ、相互的にアジャストさせることによって、人々は不確かな現実をなんとか受容し、正気を保っていくことができるのです。
 そういうアジャストメントの歯車として、(村上春樹の)小説が機能したという気がしている。」

 作品の創作の経緯


 本エッセイで、村上春樹は「風の歌を聴け」から「色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年」まで、ところどころで、その創作の経緯などを述べています。

 創作の方法や原動力になるものを書いてある、村上春樹ファンとしては一読しておきたいエッセイです。 

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