「女のいない男たち」村上春樹 感想・読後レビュー 村上春樹のコンセプト・アルバム的な短編集

 
「女のいない男たち」は2014年4月18日に文藝春秋より発売された短編集であります。

 作者が前書きに本著の内容に触れています。この短編で描かれているのは文字通り「女のいない男たち」なのです。いろんな事情で女性に去られてしまった、あるいは去られようとしている男たちの話です。

 ネタバレ注意


 ここからは、小説の内容に触れていきますので、ネタバレに注意してください。

 作品の内容


 ドライブマイカー


 運転に関する描写が細かい。
 車の振動、シフトチェンジの滑らかな動きの中で、家福と渡利みさきの会話は行われる。
 二人の会話と妻に先立たれた家福の回想でこの物語は語られる。

 この作品が文藝春秋に掲載された際、

 「火のついた煙草をそのまま窓の外に弾いて捨てた。たぶん中頓別町ではみんなが普通にやっていることなのだろう。」

 という表現を使っていました。
 これに対して、北海道・中頓別町の町会議員から「偏見と誤解が広がる」と抗議を受け、単行本では、架空の「北海道※※郡上十二滝町」と改められました。

 しかし、村上作品の中に町名が残ったほうが町のPRになったのではないかと思います。

 イエスタデイ


 栗谷えりかの見た氷で出来た月の夢。とても儚くて、切なくて、美しい夢。
 この話の登場人物は皆、知的で品があり、育ちの良さを感じる。
 主人公の谷村、大阪弁を喋る木樽、栗谷えりか。

「何があろうとその繊細なアイメイクを損なうわけにはいかない」
 このような言葉の紡ぎ方が村上作品独特の透明感を作り出していく。

 独立器官


 渡海医師が食を絶ち、痩せ衰えていく姿から、話としてはつながりがないが、上田秋成の「青頭巾」の鬼を連想した。ベッドの上で後藤の姿を何も言わず、目だけで追う渡海は強烈なイメージで死を連想させる。

 シェエラザード


 外界と隔てられた「ハウス」で、羽原の唯一の外界との接点となっている女が「シェエラザード」である。
 シェエラザードの話には羽原を惹きつけるものがある。
 前世はやつめうなぎであり、そして、湖の底で石に吸い付いて、ゆらゆら漂っていた。
 彼女が高校の時、クラスの男の子の家に空き巣に入る話は、その女子高校生的な感覚にむせるほどである。
 シェエラザードの話は羽原を魅了します。

 木野


 同僚に妻を寝取られた木野は小さなバーを経営している。妻に逃げられた傷ついた心をつなぎとめておく、小さな隠れ家である。
 「木野」というその酒場は奇妙に居心地の良い場所になった。
 しかし、そんな日常は長く続かず、蛇が彼を追い込んでいく。「神田」に言われたままに、彼は旅に出る。
 見えないものに追い込まれて行く中で、彼は気づく。
 本当は彼は深く傷ついていることを。

 妻に裏切られた男の心の遍歴を綴ったとても魅力的な小品です。

 女のいない男たち


 この短編集のために書き下ろされた短編。
 エムの自死の知らせを受けて、女のいない男たちについて、延々と思いを巡らせる。

 コンセプトアルバム


 村上春樹はこの作品をビートルズの『サージェント・ペパーズ』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』のことを緩く念頭に置いて書いていたと述べています。
 いろいろな文体、いろいろなシチュエーションを短期間に次々試し、ひとつのモチーフに対して様々なアプローチをしています。
 その「コンセプト・アルバム」という意図は、作品群の統一的なテーマ、個々の作品の様々な描き方という点で、成功していると思います。


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