人質の朗読会 小川洋子 感想・読後レビュー 極限状態での朗読会
本作品は『中央公論』にて、2008年9月号から2010年9月号にかけて年4回掲載されました。
2012年度の本屋大賞にノミネートされ、第5位にランクインしました。
単行本は2011年2月25日に中央公論新社より出版されました
2014年に中公文庫化され、同年WOWWOWにてテレビドラマ化されました。(小説の内容について触れていますので、ネタバレに注意してください)
南米のとある国で人質にとられたマイクロバスの日本人ツアー客。
その事件の現場で、録音された盗聴テープ。その中には人質の8人が行った朗読会の声が収録されていた。その朗読会のラジオ番組という形で、この作品は語られる。(8人はもう亡くなっている)
いつ殺されるかわからない極限状態で行われたであろう朗読会。しかし、その中で語られたのは、彼ら人質それぞれの、人生の核となるものを形作ったエピソードの数々であった。
とても平易な語り口調で綴られる物語は彼らがもう亡くなっていることもあり、セピア色の写真を見るようである。
小川洋子の作品の中でも、その完成度の高さからもっとも好きなものの一つです。
小川洋子の特徴のひとつのグロテスクさがあまり前面に出ず、叙情的な部分が際立った作品であると思います。
私は特に「槍投げの青年」が好きです。陸上競技特有のストイックさや、力強さや、繰り返しのルーティーンからの高揚感などが、その文章の中で鮮やかに蘇ります。
第一夜 杖
町の鉄工所独特の喧騒や、匂いや、火花がこの女性の話の中で、鮮やかに表されている。そして、鉄工所の中にある「世界を創造する力」が女性の足を救う。
第二夜 やまびこビスケット
ビスケット工場に勤める女性と整理整頓を信条とする年をとった女性の大家さんの話。アルファベットのビスケットが大家さんと女性をつなぐ役目をする。
第三夜 B談話室
幻のような公民館の「B談話室」。
その中では不思議な会合が開かれている。
僕はその会合に潜り込み、その会合の一員となる。
第四夜 冬眠中のヤマネ
僕とおじいさんと、冬眠中のヤマネの縫いぐるみ。
その縫いぐるみは僕の一部となった。
第五夜 コンソメスープ名人
8歳の私が隣の娘さんのコンソメスープ作りを手伝う。
第六夜 槍投げの青年
槍投げの青年と私。
槍投げは、「肉体を使う運動であると同時に、孤独な思索でもあった」。槍投げの青年は私の心の中に住み着いた。
第七夜 死んだおばあさん
私は町で声をかけられる。そして、死んだおばあさんに似ていると言われる。
第八夜 花束
課長さんにもらった花束は当然のごとく、死者への捧げものとなった。
第九夜 ハキリアリ
特殊部隊の一隊員は人質の朗読会をハキリアリの行列に例えた。
作者の文章は、細かなところまで神経が行き届いていて、適度に面白みがあり、語り部へのシンパシーにあふれています。
何回も読み返したい作品です。
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