騎士団長殺し 村上春樹 感想・読後レビュー 絵を描くことを小説にする


 

 2017年2月25日発行の本であるから、2年遅れで読んだ感想です。図書館でたまたま借りれたので読むことができました。本の内容にふれていますので、ネタバレに注意してください。

 この作品は2002年の「海辺のカフカ」2009年の「1Q84」につながる長編小説であると思います。これらの作品には共通するモチーフとなるものが多くあります。そして作者の新しい世界は私を魅了しました。
 この作品の特徴をあげてみました。
 

 絵画を書くことを描写する


 この物語は一貫して絵画を通して話が進んでいきます。作者自身が絵画の創作を仕事にしているように具体的で細かな描写です。絵というのは言葉より原始的で人間が生まれたころから使用されてきた表現方法です。それを、言葉で表現していくのは、今の村上春樹だからこそできることであると思います。

 夢の中での受胎とその子供


 1Q84に出てきたのと同じように空間を超えて夢の中で受胎する話が出てきます。それは1Q84の時より、生々しくないです。そして、この話の中では最後の場面で、その子供はもう生まれていて、温かい家庭の中で健やかに育まれています。これが今までの作品になかった結末です。1Q84などは新しい出発を予感させる場面で終わっていますが、それはハッピーエンドとは違ったものでした。しかし、この作品では穏やかな日常が最後に描かれています。

 暴力的なことの封印 騎士団長殺し


 「騎士団長殺し」「白いスバル・フォレスターの男」の2つの絵画は暴力性の象徴のような作品です。それを、「私」と秋川まりえが屋根裏部屋にしまい込む行動は、暴力的なことを隠すことを表している気がします。
 何度も繰り返し、表現されている騎士団長殺しの絵は、この作品の一番のテーマになっています。そしてイデアの騎士団長は自らの意志で「私」に刺し殺されます。この場面は「海辺のカフカ」でジョニーウォーカーを刺す場面と通じるところがあります。死と再生を表しているのでしょう。

 異世界への侵入


 この作品で「私」はっきりした形で異世界に入り込み異世界で試練にあいます。それは死後の世界のようでもあります。

 その他、すべてとりあげていったら小説をそのまま書き写すことになるので、ここで終わります。

 絵画を表現することと、夫婦と生まれた子供との3人での穏やかな生活の描写は、今までの村上作品になかった要素であるでしょう。

 村上春樹の次の長編作品が待ち遠しいです。

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